抗がん剤の副作用について

抗がん剤治療と副作用

さまざまながん治療で行われる「抗がん剤」治療は、一定の有効性は認められているものの、治療薬としての強さゆえに「副作用」が伴う場合が多くあります。

 

その傾向と対応について紹介いたします。

 

副作用が起きる原因は?

抗がん剤は、細胞の増殖が異常に早い「がん細胞」を叩くという特徴を持っていますが、細胞の増殖が早いのは「がん細胞」に限った事ではなく、消化器官の内壁や口腔内の粘膜、毛髪、血液、白血球、ヘモグロビンといった、細胞の入れ替わりサイクルが早い正常な細胞の増殖までも叩いてしまうことによって、副作用が伴ってしまう訳です。

 

これらを踏まえたうえで、抗がん剤治療による副作用にはどんなものがあるのか、一部ご紹介致します。

 

 

下痢と便秘

抗がん剤治療の副作用の中でも、下痢と便秘で悩まされる例があります。

抗がん剤の種類によって、下痢になるか、便秘になるかに分かれるようです。

 

下痢や便秘を引き起こす原因は、抗がん剤が消化器官を構成する細胞を攻撃するからです。

「抗がん剤」は、細胞の増殖スピードの速さで異常な細胞かを区別していますが、他の細胞に比べて入れ替わりが頻繁で、増殖スピードが速い消化器官の細胞までをも攻撃することが、下痢や便秘を起こすわけです。

 

特に「腸」の機能が低下することで、水分が十分吸収できない場合は「下痢」、ぜん動運動が働かないと、「便秘」になります。

長期間の下痢は、時に脱水症状を引き起こし、重篤な場合は点滴などでの水分補給が必要になり、体力を著しく消耗します。

 

便秘については、抗がん剤の効果を持続的に体内に留めておくという意味もあるようですが、我慢できない場合は、速やかに担当医へ相談しましょう。

 

 

口内炎

抗がん剤治療で多くの方が、口をそろえていうのが「口内炎」です。

一般的な口内炎は、栄養の偏りや疲労などで起こるのが一般的ですが、抗がん剤治療で発生する口内炎は、抗がん剤によって口の粘膜そのものに作用する場合と、抗がん剤によって抵抗力が減退しそれが引き金になって雑菌などの増殖によって起こる場合が殆どです。

 

一般的な口内炎と違い、口腔内の腫れから始まり、時に出血や味覚障害、組織の壊死など重篤化し、最悪これで「死」に至る場合があります。

 

口内炎になることで、食事がままならず水分補給も困難なることから脱水症状に陥る場合があります。

日頃から口腔内を清潔にすることを心がけ、なってしまった場合は、投薬と口の中の保湿で対応します。氷などて冷やす方法も有効と言われていますが、人によっては効果がない場合があります。

 

口の中を刺激しないよう、食欲があっても香辛料を多く含む食事や、喫煙などは絶対控えるべきです。

 

 

味覚・嗅覚の変化

抗がん剤の副作用として、味覚や嗅覚に変化を感じる場合があります。

 

これは、入れ替えが頻繁で増殖スピードが早い味覚や嗅覚をつかさどる細胞に抗がん剤が作用するからと言われています。

特に味覚に関しては、今まで感じていた微妙な味覚を感じにくくなる傾向があります。

これは抗がん剤によって口腔内の粘膜が影響し、唾液の分泌が減少することも原因と言われています。

また、口内炎による細菌感染によっる場合もあるようです。

 

嗅覚は味覚と密接に連動しているためどちらか一方が影響を受ければ、結果的に両方変化を感じるようになります。

 

味覚と嗅覚は、抗がん剤治療が終了したあとも障害が残りやすいので、変化を感じ始めたら、早めに担当医へ相談してみましょう。

 

 

難聴、ふらつき、しびれ

抗がん剤を使用した事による、聞こえにくい、ふらつき、しびれなどは、耳の奥にある末梢神経が薬の影響を受けることで起きる場合があります。

 

耳の奥、つまり内耳は聴力とバランス感覚をつかさどる役目があり、車酔いをする原因は内耳のバランス感覚が偏ることでおこります。

この内耳が何らかの影響を受けると正常な状態を保つ事が難しくなります。

 

しびれる感覚は、人によって個人差があり、ピリピリ感の持続、手足の感覚が鈍る、洋服のボタンが上手く持てない、または靴ひもが結べない、歩いても足が地についていない感覚だったりと、生活に不便を感じるようになります。

 

体温を低下させるような冷たい食事や冷房の過度な使用を避けて、悪化させないことです。

 

 

関節や筋肉の痛み

抗がん剤の治療は、数か月に渡り間隔を開けながら続けられます。

症状にもよりますが、1年近く続く場合もあります。

 

抗がん剤の投与治療をしたことによる関節や筋肉の痛みは辛いものがあると言います。

抗がん剤の種類にもよりますが、投与開始日の翌日~4日程度で痛みだす傾向があり、投与している間は、痛みの頻度が増加し、また痛みが増大します。

 

痛み自体は抗がん剤を投与している間だけですので、投与が終われば症状も治まりますが、だとしても痛みを我慢することは難しいので、同時に鎮痛剤を処方してもらう等の相談をすることをお勧めします。

痛みがひどい場合は、抗がん剤の投与について量やサイクルの変更を同時に医師へ相談してみましょう。

抗がん剤を受けて真っ先に体力を奪われる原因は、この痛みと倦怠感によるものです。

 

 

抗がん剤投与による白血球減少

抗がん剤の影響は「白血球」にも及びます。

 

白血球の働きは、菌やウィルスの侵入に対してそれらを攻撃し死滅させるために存在します。いわば生命維持に直結すると言っても良いかもとれません。

この抗がん剤の投与によって「白血球」が減少してしまうのですが、自覚症状はありません。

この自覚症状がないところが「白血球減少」の恐ろしい所です。

 

抗がん剤が白血球を減少させてしまうのは、白血球が生まれる骨髄にも影響を与えるからです。

これは細胞の生成サイクルが早いものを攻撃するという特性を持つ抗がん剤であるがゆえに、骨髄についても、例外なく影響を受けてしまうのです。

 

抗がん剤を受け続けている間は、白血球の生成が抑制されている状態にあり、抵抗力が弱くなっています。

体内に異物を摂りこまないようマスクの着用、体を清潔に保つこと、混雑している場所へは近づかない等心がけましょう。

 

 

赤血球とヘモグロビンの減少

抗がん剤の投与で起こる副作用には「貧血」があります。

白血球の現象同様に、赤血球が作られる骨髄細胞が影響を受けるために、抗がん剤を受けている間は慢性的な「貧血」の症状が続くことになります。

 

同時に「ヘモグロビン」も減少します。

ヘモグロビンは、赤血球を構成している成分で、摂り込んだ酸素と結合し体各部分に酸素を運搬する役割があります。

このヘモグロビンが減少することによって、血中酸素濃度は低下し細胞が活動することが困難になります。

結果的に、だるさ、呼吸数の増加、動悸、息切れ、平衡感覚が保てない、思考能力の低下、頭痛といった症状が現れます。

 

抗がん剤が間隔をあけて投与されるのは、貧血などの症状を回復させるためのインターバルを設けるためです。

ある程度回復が認められ体調的にも耐えられると判断されれば、投与が開始されます。

但し、貧血が著しく場合なは、輸血などの処置がとられる場合があります。

 

人によって回復具合が異なりますので、見極めが難しいのが抗がん剤治療の特徴でもあります。

 

 

消化管穿孔(しょうかかんせんこう)

抗がん剤治療でよくみられる症状に、腹部の不快感と下痢があげられます。

症状が軽い場合はそれほど問題ではありませんが、症状が進行し重くなると「消化管穿孔」というものを発症し、小腸や大腸の消化器官に穴が開く場合があります。

進行すれば激しい腹痛や下痢を頻発しますので、一刻も早い医師の診断が必要になります。

 

この症状自体は、入れ替わりのサイクルが早く、増殖が頻繁な消化器官の細胞に対し、抗がん剤が反応してしまうという特徴故でもあり、ある意味避けられないものかと思います。

 

下痢や腹部の不快感が、必ずしも「消化器穿孔」の予兆とは限りませんが、自己判断せず、不安を感じたら早めに医師の診断を受けることをお勧めします。

 

食事等が摂れる状態であるならば、胃腸に負担をかけるような刺激のある香辛料やお酒、消化に時間のかかるか食べ物、油ものは控えるようにしましょう。

 

 

AST(GOT)の上昇

抗がん剤の治療をを受ければ、何かしらの症状を感じるものですが、一方でまったく自覚症状がない副作用もあります。

その中のひとつ、AST(GOT)の上昇があります。

 

AST(GOT)とは、肝臓に由来の酵素で、肝臓の働きや病気を調べる際にはこれを調べることで容易に判断できます。

判断方法は血液を調べ、酵素の量が平均値より多ければ肝臓が何かしらの異常を抱えていると判断出来ます。

 

抗がん剤の投与によっても、AST(GOT)が上昇し、これが副作用のひとつでもありますが、初期は自覚症状が殆どなく、重篤化しない限り症状が表れにくい傾向があります。

 

血液検査のみですぐにわかりますので、気になる方は一度受けてみましょう。

結果上昇気味の結果が出た場合には、抗がん剤の量やサイクルを加減する等医師に相談してみましょう。

 

抗がん剤によるAST(GOT)上昇は、投与を止めれば治まる傾向がありますが、高いまま放置すれば劇症肝炎など併発する場合もありますので、注意が必要です。

 

 

ALT(GPT)の上昇

先に説明したAST(GOT)同様、ALT(GPT)も肝臓に由来する酵素のひとつです。

この酵素の数値が上昇傾向にあると、時として肝不全などの肝障害を引き起こす他、脳の機能にも影響を与える場合があり危険です。

抗がん剤の投与量、サイクルなどによっても影響の頻度は異なりますので、判別が難しいのが現状です。

 

このALT(GPT)が上昇する原因は抗がん剤の影響が大きく、その理由として抗がん剤の成分が肝臓によって分解代謝されるからで、その負担が大きいからと言われています。

沈黙の臓器と言われるほど症状が現れ難く、発見が遅れる傾向があります。

僅かでも変化を感じたら、そのまま放置せず、すぐに医師へ相談しましょう。

 

 

γ-GTPの上昇

健康診断の結果表に記載されていますので、ご存知の方も多いと思いますが、γ-GTPとは、肝臓内の解毒作用に由来する酵素を意味します。

この数値は血液の検査で容易に判断できます。

お酒を飲む頻度が多い方は数値が髙めの傾向にあります。それは肝臓や胆管の細胞が壊され血液中に酵素が流出するからです。

 

これと同じように、抗がん剤も肝臓で分解されますので肝臓や胆管への負担が大きくなり、数値に現れる傾向にあります。

抗がん剤治療の投与終了後は数値が落着いてきますが、まれに慢性的に数値が落ち着かないと、肝不全を起こす場合があり、脳へ障害が及ぶ場合があります。

 

そうならないために抗がん剤治療は継続して行わず、数回に区切って行ことで、出来る限り負担を掛けないようになっています。

 

一般的に抗がん剤治療は、3週間から4週間を一区切りとします。

少量の抗がん剤をおおよそ1週間おきに投与する方法等もありますが、投与期間→休息期間の繰り返しを1クールと呼びます。

このクールを何回行うかは、患者の体力と進行状況によって異なり、長い場合1年前という例もあります。

 

 

 

手足症候群

あまり聞きなれない名称ですが、抗がん剤の副作用かもしれません。

これは、抗がん剤が皮膚を形成している細胞を壊し、形成を妨げる現象です。

 

手足のあらゆるところに、火傷を負ったような水ぶくれができ痛みを伴います。

重症化すると歩行はほぼ困難になり生活に支障をきたすようになります。

稀に痛みがない場合がありますが、それでも手足が腫れ、時に爪が変形して生える場合があります。現在これに対しての薬はありません。

 

可能な限り肌への刺激を与えないように、直射日光をさけ運動を控えたり、患部を清潔に保つなど症状を重くしない努力が必要です。

病院から指導かある場合はそれに従い、担当医へ相談するのも良いでしょう。

 

 

食欲が低下する

抗がん剤によって消化器官を構成する細胞は壊され、新たな細胞の形成が阻害されることで、吐き気や嘔吐を誘発し、味覚異常なども併発することも食欲を減退される要因です。

 

基本的に食事を摂れない状態は、必要な栄養を補給出来ないばかりか、水分も補給できないので、栄養失調と脱水症状に陥り、健康状態を一層悪化すさせる原因になります。

食事を摂れないことは、肉体的にも精神的にも辛いものです。

 

点滴等での栄養補給も可能ですが、一時的な対処方法でしかありません。

また、比較的食べやすい果物やゼリー、ジュース等に偏る傾向にあり、エネルギー源となるたんぱく質やビタミン類を補給する機会ほぼ皆無になってしまいます。

 

入院中の場合は、提供される食事について病院に相談してみましょう。

自宅で療養中の方には、最近通信販売などても食べやすく加工したものが手に入りやすいので、そちらを利用するのも良いでしょう。

 

いずれも、食欲がなくなってしまってからでは遅いので、早めに対策を講じましょう。

 

 

出血

脊髄で作られる赤血球、白血球、ヘモグロビンの他に血小板があります。

抗がん剤によって脊髄も影響がすることによって血小板の生成も減少します。

 

血小板は、身体が何らかの影響で損傷し出血した場合の止血役として働きますが、抗がん剤を投与している最中は、血小板も減少していますので少しの怪我でも血が止まり難い傾向にあります。

例えば、打撲程度でも大きな内出血を伴うことがあります。

 

そのため刃物を使った作業は控える、歯ブラシは柔らかいものに変える、激しい運動は避ける、可能な限り自動車バイク自転車の使用は控えるなど、出血のリスクを少しでも減らす努力をしましょう。

万が一出血した場合は落ち着いて行動し、止まらない場合は医師に見せましょう。

 

また、目に見えないものに「血痰」があります。

これは抗がん剤の副作用により食道や呼吸器官から稀に出血する場合があります、少しでも確認できたら速やかに医師の診断を受けましょう。

 

 

倦怠感・いわゆるだるさ

抗がん剤治療の副作用で真っ先に実感するのが、倦怠感やめまい、集中力が持続しない等だと思います。

抗がん剤が要因だという事は判明していますが、そのメカニズムについては現在でも解明されていません。恐らくは貧血や食欲減退、脱水症状などが重なることで起こるものかと思います。

 

このような状況が続けば、普段の生活を送ることが困難になり、体力や心身の症状次第では治療そのものを一時中断ということも予想されます。

 

特に食欲の減退は体力の低下に直結するため、早めの対策が必要です。

口内炎などを発症してしまった場合には、咀嚼の回数が少なく済み、且つ栄養価の高い食事に変えるなど検討してみましょう。

 

食事からと摂取する水分量は意外と多いために、食事そのものが摂れない状況は「脱水症状」を引き起こす原因にもなります。

まずは自身の口から食事か摂れる工夫が何より大切ですので、看病をされている方はその点を注意してあげましょう。

 

 

抗がん剤が原因の肺炎

抗がん剤が肺にも影響を与える場合があり、「間質性肺炎」を発症する例があります。

抗がん剤により、肺の組織「肺胞」や気管支炎に炎症を起こす場合があります。

 

何より厄介なのが、間質性肺炎は抗がん剤の投与が終了しても、症状が収まらないことです。

その原因は、肺を構成する組織が硬くなってしまう症状「肺腺繊症」になってしまい、機能の完全な回復は難しい場合があります。

時として「呼吸不全」に至る場合があり危険です。

 

症状として「空咳」や息苦しさつを訴え、熱を出すことがあります。

呼吸不全などを起こした場合は、速やかに医師により適切に処置され安静にします。勿論激しい運動は厳禁です。

 

間質性肺炎は抗がん剤の影響によることは確かですが、白血球の減少によって抵抗力が低下したところにウィルスなどに感染することでも起こる場合があります。

常日頃からのマスクの着用をこころがけ、可能ならば空気清浄器を使用しましょう。

 

 

腎機能の低下

抗がん剤を使用したがん治療では、各種内臓にも影響を与えます。

特に腎機能の低下は注意深く観察する必要があります。

 

抗がん剤治療を行う際、腎機能を検査する時が多々あります。特に体力や抵抗力が低い子供や高年齢者は、抗がん剤を使用した事によって浮腫が出る場合があり、薬の量や投与のサイクルを慎重に見極める必要があります。

 

腎臓は尿の排泄に直結する機能です。

尿は体内で不要になったものを排泄する役割がありますが、その中で調べるのが「クレアチニン」の排泄量です。

「クレアチニン」の排泄量によって腎機能の良し悪しを判断し、腎機能に異常があればクレアチニンの濃度が上昇する傾向にあります。

 

クレアチニンの数値が上昇すると吐き気やお腹が緩くなる場合があり、その際には腎機能の異常を疑い、薬の量の見直しなどが行われます。

 

腎臓の健康状態は見極めが難しく、経験を積んだ医師の診断が必要です。